Chie Nishimura
YOU ARE WHAT YOU EAT!

「これ、上野さんのおこめ〜?」
「ブロまさ農園のナスか〜」
「これうちのお味噌〜?それとも味噌屋さんの〜?」
そんな会話が夕飯の食卓で賑やかに繰り広げられると、ホクホクと嬉しい気分になります。
仕事から帰ると息つく暇もなくバタバタとキッチンへ向かい、お腹を減らして横からつまみ食いをする3人兄弟のために短時間でチャチャっとご飯を作る。仕事柄、華やかな料理を作っているように思われますが、日々のご飯はいたって素朴。
けれど、こうして食材を作ってくれた人のことを一緒に話すことができるのは豊かな気持ちになるものです。
日々食べる食事は、私たちの体と心を作る。
そう考えると、どんな食材を選ぶかがとても肝心だなと思います。
もちろんどんな方法で栽培されたか、飼育されたか、加工されたか、も大事だけれど
「誰が作ったか」もとても大切な要素。
雨が降らないけど畑は大丈夫かな?台風だったけど大丈夫かな?
そんな心を寄せることができる人の顔を浮かべられると、より一層美味しく感じたり、大切に感じることができるのです。

子供たちはたくさん畑で過ごしました
都内から三浦半島に家族で引っ越し、ひょんなきっかけで農業に関わり、もっと食卓と生産現場を繋げたいという思いでファームキャニングを立ち上げました。
日々の食卓が誰かとつながりをもっていると感じて誰よりも喜んでいるのは私自身だと思っています。
そんなわけで、私の場合は農業の生産者にお会いすることが多くあります。
ただでさえ天候などに左右されながら人が食べるものを作るという仕事は大変なのに、
無農薬・無化学肥料での栽培、自然栽培、農薬を減らした栽培方法など、自然環境や人や社会に配慮してチャレンジしながら働く方たちに私は敬意しかありません。
実際に私も1年ほど少しお手伝いをしたことがありますが、虫を手で取ったり、草を刈ったり、地道な作業の積み重ね。

無農薬・無化学肥料栽培の農園を手伝うことに
しかしそんな苦労を吹き飛ばすくらい、野菜は美味しいのでした。その場で摘んだルッコラの力強い香りに圧倒され、水が滴るアスパラガスに感動し。
もちろん新規就農からベテラン農家まで、経験値の差や腕の差はありますが
いずれにしても、その手間や苦労を思えば「この野菜、高い」なんて言えないと思ったものです。
こうしたことを話すと、よく取材などでは「農業を手伝った経験がターニングポイントだったのですね」と言われますが、実は私が持続可能な社会と食を結びつけて考えるようになった素地が作られたのは16歳のころに遡ります。
私は高校2年生の時に交換留学生としてドイツの田舎の村で1年間ホームステイをしました。
当時からドイツは環境大国として知られていましたが、確かに環境保全に向けてゴミの厳しい分別やリサイクルは当然、オーガニック食材も普通のお店に並んでいました。20年以上も前のことなのに。

ヨーロッパは生産者が直接販売するマーケットが楽しい
そして強烈だったのは、滞在先のホストマザー。若い頃に北欧の森で暮らしたという元ヒッピーで環境への意識はドイツ人の中でも強く、自身はベジタリアンでエコハウスに住みシェアエコノミーを楽しむシングルマザーでした。
そんな彼女に、女子高生だった私は「何でベジタリアンなの?」と聞いたことがあります。すると少し考えた後、「今あなたに伝えてもわからないと思う。説明できない」との返答。
子供扱いされているようで少し悔しかったのですが、「きっとあなたの国では、20年後、今のドイツと同じようになっていると思うわ。その時にわかるはず」と予言を受けたのです。
なぜベジタリアンの理由を教えてくれないのか。なぜ20年後と予言するのか。日本がドイツのようになるってどういうことなのか。当時は頭の中にハテナ?しか浮かびませんでした。

ドイツのオーガニックスーパーは年々増えている
いつしか自分が大人になり、気づけばちょうどあの予言から20年。日本はまさに自然環境や持続可能な社会に向けて配慮することが当たり前の考えとして広がりつつあります。何よりも、私がオーガニックやサステナブルといったテーマに興味を持ち、その分野で仕事までしているから驚きです。
そして、今ならとてもよくわかるのです。
ホストマザーは単に健康志向でベジタリアンになったのではなかった、と。
例えば牛肉1kgを生産するために2万リットルの水が使われ、豚肉1kgを生産するのにC02は7.8kg排出されると言われている。
また生態系を無視した乱獲や海洋汚染、温暖化などにより、このままでは2048年には食用魚が海からいなくなるとも危惧されている。
そして国連食糧農業機関からは多くの国では水質汚染の最大の理由は農業であると報告されている…。
つまり私たちの「食」を賄うために、多くの自然環境が汚染、破壊されているのです。
食べるものは自然からの循環であるのに。
ホストマザーはそんな愚かなことはやめるべきだと、人間の暮らし方を少しでも変えることが自然と人間が共存するために今すぐ必要なことなのだ、と考えていのだと思います。
その方法の一つとして彼女が選んだのがベジタリアンという生き方だったのかもしれません。

デンマークのヴィーガンカフェのメニューはとてもカラフルだった!
もちろん肉や魚を食べること自体が悪いことではありません。
私は肉も魚もいただきますし、人の数だけ選択があるのです。
食べものは、心と体を作る。
そして、人生を作る。
そんな気持ちでこれからも、いのちをつなぐ「食」を大切にしていきたいなと思っています。
ファームキャニング
西村千恵