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  • 執筆者の写真Chie Nishimura

ミツバチがつなぐ未来




私が初めてはちみつ絞りを体験したのは今から7年ほど前。

当時葉山に引っ越してきてからお手伝いをしていた農園に巣箱が設置されていて、その箱の中に溜まった蜜を絞るよと声をかけてもらったのでした。

採れたての黄金に輝く艶やかなはちみつは驚くほど美味しくて、悶絶したのを今でも鮮明に覚えています。


はちみつと聞くと皆さんはどのようなものを思い浮かべますか?

お店に並ぶ瓶詰めでしょうか。それともくまのプーさんが抱える蜜壺?パンケーキにとろりとかかっているあのイメージ?



それまでの私は正直なところ、はちみつに対してすごい思い入れがあったわけでもなく、「栗のはちみつ」「レンゲはちみつ」「百花みつ」というような種類があることをぼんやりと知っていたくらいでした。


農園ではあまり人が通らない茂みの奥に置かれた木箱の周りにはミツバチが飛んでいるので、なんとなく近寄り難いものという印象。

その箱の中身がどうなっているかなんて、全く知る由もありません。


また、一般的に流通している多くのはちみつは外来種の西洋ミツバチのもので、日本ミツバチという日本の在来種のものはとても貴重だということも知りませんでした。


はちみつ絞りの当日、刺されないようにネット付きの帽子を被り、手袋をするとさすがに緊張が高まります。

恐る恐る後方から見守っていると、燻煙器で麻布を燃やした煙をハチにかけ、攻撃性を沈めています。


そして蓋を開けて中に並ぶ巣板を引き上げると、そこには無数のハチがびっしりとくっついているではないですか!

ミツバチたちは思いがけず巣を引き上げられて慌てているようにも見えます。



そんな状態のハチを手際よくブラシで優しく払い、巣板を作業場に持ってくると今度はナイフで巣を少し削り、遠心分離機に設置して蜜を集めます。


とろりと出てくる艶やかな生のはちみつを指ですくってみると、それはそれはうっとりするような、優しい香りと甘み。ほんの少しいただいただけでも満足度が高いものでした


こうしてみると、大切にミツバチが蜜を集めて巣を作っているところを人間が横取りしている気分にもなりますが、そもそも養蜂は畜産なのだと聞いて驚きました。


確かに、自然に木の上にできたハチの巣ではなく、人間が設置した巣箱でミツバチを飼うのですからそういうことになるのですね。



働き蜂が2〜3年という一生のうちに集めてくる蜜の量はティースプーン1杯だといいます。

しかもミツバチの生態系は、1匹の女王蜂と3~6万匹の働き蜂子孫を残すためだけに準備している雄蜂が100〜2500匹で一つの群を構成しています。


そしてこの何万匹もの蜂同士が、高度なコミュニケーション方法をとりながら、全員が力を合わせて仕事の役割分担をしながら巣を作っているのです。

そしてせっせと巣に溜め込んだ、彼らの食糧である蜜をこうしていただくのだと思うと、どれだけ謙虚な気持ちになることでしょう...。


ちなみに、巣箱の蜜を全部取ってしまうとミツバチが冬を越すための食糧がなくなってしまうため、多くの養蜂では砂糖水を置いて蜜を再度作らせたりしますが、私が関わった養蜂家の方々は、越冬するための蜜を少し残して、本当にお裾分け、という気持ちで採取されていました。そういう姿勢からは多くのことを学びます。



とはいえ、私たち人間や動物は、食べ物を食べる=いのちをいただくことで生きていくという自然の法則の中にいます。

蜂が集めた蜜を食べると思うだけで、こんな気持ちになるのですから、ましてや豚や牛、鶏、魚などの命をいただいていることを考えてみると、本当に大切にいただきたいと痛感させられます。


そしてミツバチは美味しい蜜を集めるだけでなく、畑の作物の受粉に大きな貢献をしてくれているのだと思うと、まさに人が生きていく上で欠かせないパートナーなのだと気づくことができます。


近年ミツバチが大量に消える現象が世界各地で見られ、その原因は明らかでないものの、農薬や気候変動などが理由として考えられています。


もしミツバチがいなくなったら何が起こるのか想像できますか?

国連食糧農業機関( FAO)の試算では、世界で生産される全作物の1/3以上はミツバチによって受粉されているとされ、もしミツバチが地球上から消えた場合、深刻な食糧危機に陥り、人類は生きていけなくなると言われています。


つまり私たちの行動によってミツバチを消滅の危機に追い込んでいるのだとしたら、地球の生態系を崩し、巡り巡って私たち自身の首を絞めていることになるのです。



植物は虫たちにより受粉することができ、虫はその植物から蜜を集めて栄養をもらっている。

受粉した植物は、他の動物が食べるものを実らせ、その動物たちが飲み込んだ種が排泄物の中に潜んで遠くへ運ばれ新たな命を芽吹かせる。


畑にいると、こうした自然の循環が手に取るように見えてきます。

いやでも人は自然の一部であり、決してひとりでは生きていけない存在なのだと言うことを感じさせてもらうのです。


今ではこのミツバチの重要性はいろいろなところで見直されていて、畑だけでなく都心部でも養蜂が広まっています。

東京では銀座ミツバチプロジェクト(http://gin-pachi.jp)が有名ですが、自然と人を繋いだだけでなく、このプロジェクトを通して人と人を繋ぎ続けています。

またフランスはパリのオペラ座の屋上や、ニューヨークやロンドンのオフィスビルの屋上でも養蜂が盛んになっているのだそう。


自分が住んでいる地域に、ミツバチの巣箱を置いてみると、蜂目線になって社会の見え方がぐるりと変わるかもしれません。



私の住んでいる逗子市では、山と太陽と海の恵みを活かした「はやし養蜂」さんがいらっしゃいます。地元の大人からも子どもからも愛される非加熱のハチミツ。「私のまちのハチミツだよ」とお友達に贈ることができるのは、なんともいえない、誇りに近い喜びです。


いろいろなところで自然と人が共存していることを、ハッと思い出させてくれるミツバチ。

あなたのまちでもせっせと働くミツバチ、きっといるはずです。

ぜひ見つけたら、優しいきもちで挨拶してあげてくださいね。




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