【特別寄稿 】第2回 自然のリズムで生きる(文:古佐古 基史)




 つい先日、医療系のネット記事で、「アルツハイマー型認知症とパーキンソン病の患者では、『サーカディアン・リズム』が崩れている」という研究が紹介されていました。


 サーカディアン・リズムは、日本語では「概日リズム」と訳されます。耳慣れない言葉かと思いますが、いわゆる体内時計のことで、およそ24~25時間周期に設定されています。


 サーカディアン・リズムは、地球上の生物が健全に生きる上で不可欠なもので、体温、血圧、睡眠、ホルモンなど、生体の調節機構に大きな影響を与えています。この体内時計のおかげで、人体は太陽の動きに合わせて日中は活動的なモード、夜間は休息モードへと自動的に切り替わることができます。


 サーカディアン・リズムと関わりの深いホルモンに、メラトニンとセロトニンがあります。メラトニンは、睡眠を誘導するホルモンで、日中は光の影響で抑制され、夜になり暗くなると分泌量が増えて睡眠を誘発する仕組みになっています。一方セロトニンは、日光をしっかり浴びることで分泌量が増えるホルモンで、精神のバランスをとる働きがあります。セロトニンが不足すると、気分が重くなったり、感情のコントロールが不安定になったりするため、セロトニンは別名「幸せホルモン」などと呼ばれることもあります。


 サーカディアン・リズムが乱れると、いわゆる時差ぼけの状態が慢性的に続くことになり、上記のホルモンバランスが崩れ、睡眠障害や気分障害につながります。悪化すると、うつ病などの精神疾患、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病も引き起こす危険性があります。


 冒頭に紹介したネット記事では、アルツハイマーやパーキンソン病の患者においては、サーカディアンリズムが崩れることで睡眠障害が起き、睡眠中に行われるべき脳内の老廃物の処理が停滞した結果、脳がダメージを受ける可能性が指摘されていました。このことは、現代人の短時間睡眠の傾向と認知症の増加傾向の関連を示唆しているのではないかと思い、少し統計を調べてみました。


 厚生省の統計によると、近年の認知症の各年齢ごとの有病率には上昇傾向がみられ、また、年齢別の睡眠時間の平均値を見ると、40年前と比べて、40代~50代の世代では約1時間減少しています。いわゆる働き盛りと呼ばれる50−59歳では、睡眠時間が最も短く、7時間を切っています。


 大きな社会的責任を背負って生きている中年世代を元気に乗り切るためには、一生懸命に働くばかりでなく、しっかりと休息をとることも必要なのですが、実際には、ほとんどの方が睡眠時間を削って無理をして働くことによって、サーカディアン・リズムを崩していると考えられます。このように、40~50歳代にサーカディアン・リズムの崩れた生活が習慣化することで、将来に認知症を発症するリスクを高めている可能性は大いに考えられます。


 もしそうだとすると、認知症などの脳の病気の予防のためには、サーカディアン・リズムを健全に保つ生活習慣を身につけることが有効であるということになります。では、どのようにすればサーカディアン・リズムを健全に保つことができるのでしょう。


 答えは実に簡単です。お日様のリズムに合わせて生活することです。お日様が出ているときには日光を浴びて活動をし、お日様が沈んだら活動を収束して休息に入る。それだけのことなのです。


 とはいえ、現代の都市生活では、ほとんどの方が屋内での活動に従事していますから、日光を浴びながら日中の時間を過ごすことはなかなかに難しいと思います。それに加え、深夜営業のお店、コンビニ、コンピュータ、スマホなど、夜型の生活を応援してくれるサービスが無数にあり、夜更かしの誘惑に勝つことは容易ではありません。それでも、休日や休憩時間の屋外での活動を増やす、夜遅くまでテレビやコンピュータの画面を見ない、家の照明をやや暗めに設定するなど、ちょっとした工夫でお日様のリズムにあった生活に近づけることは可能です。


 ところで、太陽のリズムというのは、1年間を通じて常に同じではありません。赤道直下の国ならいざ知らず、日本やカリフォルニアの場合には、夏と冬の日照時間は最大5時間も変化しますから、実は、サーカディアン・リズムも季節ごとに変化するのです。


 しかし、都会の生活では、季節による日照や温度の差異は、電灯とエアコンによって均一化され、日々の暮らしも時計を基準としたスケジュールで組み立てられているため、季節による生活ペースの変化はほとんど起こりません。一方で、人里離れたファームでお日様を浴びながら農作業などをしながら暮らしていると、季節によって睡眠時間と活動量のバランスが大きく変化します。夏は、自然と睡眠時間が短くなり活動時間が長くなりますが、冬は睡眠時間が長くなり活動時間が短くなります。それに応じて、体の代謝や食の好みなども変化するのです。


 田舎暮らしでの経験から、健全なサーカディアン・リズムを維持するためのキーポイントは、夜更かしをしないということだと思います。しかし、都会の夜は屋外でも本が読めるほど明るく、家の中でも寝る直前まで隅々まで電灯に照らされ、しかも目の前にはテレビやコンピュータ、スマホのスクリーンが光かがやき、その中では活発な世界が24時間営業で展開しています。自然に囲まれた田舎に住んでいても、コンピュータやスマホでの作業が多くなると、自然のペースに合わせて生活することは難しくなりますから、都会ではなおさら、電子機器で作業する時間帯には気をつけたいところです。


 幸い、日本には花見や紅葉狩り、月見などの四季折々の風物、季節ごとの旬の食べ物など、自然の移ろいを感じさせてくれるものがたくさんあります。その気になれば、自然のペースを取り戻すきっかけになるものが身の回りにも見つかりますから、それらも活用しながら自然のリズムに調和するライフスタイルを工夫をされてみてはいかがでしょうか。

 

古佐古基史:

ジャズハーピスト、作曲家、ナチュラリスト

カリフォルニア州在住。東大医学部卒の看護師・保健師の資格も持つプロのハーピスト。

渡米後独学でハープを学び、 ジャズハープの世界的先駆者として活躍中。

自宅で自給自足ファームを営みながら統合医療研究者としても学会で活動。