【特別寄稿 】第11回 芸術活動とサステナビリティー(文:古佐古 基史)




 筆者は、ハープ演奏、即興演奏、作曲を職業としつつ、自宅ファームで食糧、資源、サービスの自給自足を目指した持続可能なライフスタイルを実践しています。音楽活動と持続可能ファーム。全く異質の活動のように見えるかもしれませんが、実は、本質的に全く同じ目的意識に基づいています。


 音楽家は、大きく分けると3つのタイプに分類されます。まずは、他者の書いた曲の演奏を専門とするタイプ。クラシック演奏家がこのタイプになります。次に、他者の書いた曲を編曲したり即興的に変奏したりするタイプ。ジャズミュージシャン、編曲家などがこのタイプになります。最後に、自ら作曲し、ゼロから即興的に音楽を生み出すタイプ。このタイプは少数派でありますが、筆者はここに属しています。実際には、多くの音楽家は、これら3つのタイプの折衷のような立場で活動しています。


 クラシック演奏家は、すでに作曲されている楽曲の楽譜がないと、ほとんど何も演奏できません。つまり、外部からの音楽のインプットが不可欠であるため、持続可能性は最も低くなります。


 ジャズミュージシャンのように、他者の書いた曲を編曲したり即興的に変奏をしたりする場合には、完全な楽譜や完成された楽曲を必要としないという点で、クラシック演奏家よりは持続可能性が高くなります。しかし、やはり演奏の元ネタを外部からのインプットに依存しているため、真のサスティナブルには程遠い状態です。


 もっとも持続可能性の高いタイプは、自ら作曲し、ゼロから即興的に音楽を生み出せるタイプです。彼らは、外部からのインプットを全く必要とせず、演奏を生み出し続けることができます。しかも、クラシック演奏家のように、わずか数分の曲を何週間、何ヶ月もかけて習得し、高い演奏レベルを維持するためにそれを永続的に練習し続ける必要はありませんから、エネルギーの消費を抑え、さらに持続可能性を高めることができます。


 しかし、作曲や即興演奏ができるためには、クラシック演奏家としても十分に通用するだけの演奏技術、過去に書かれた作品の十分な演奏経験、ジャズミュージシャンが備えている編曲と即興的変奏の能力も習得しなくてはなりません。これは決して楽な道のりではありませんが、一度ある程度のレベルまで持続可能性を達成すると、自己完結的にいくらでも新しい音楽を生み出すことができますから、創作効率は非常に高くなります。


 これは、持続可能ファームの発展のプロセスとよく似ています。食糧、資源、サービスを自給するには、生活に関する全てのスキルをある程度までマスターしなくてはなりません。その習得のプロセスは非常に大変ですし、特に立ち上げ段階では、複雑なシステム論に基づいたデザインと、年単位での環境の観察と介入が必要ですから、長期間忍耐強く時間と労力を投資し続けなくてはなりません。しかし、持続可能なシステムがあるレベルまで達成されると、ファームの生態系は自然と循環するようになり、生産性は大きく飛躍し、メンテナンスや外部からの資源の調達に必要な投資も最小限で済むようになります。



 生活において持続可能性を目指すことで、「生きる」ということの全ての側面への理解が深まり、生活に関わるあらゆることに対応できる知識やスキルが身についてきます。それにより、生活者として自立度は大きくなり、外部からのインプットへの依存度は小さくなりますから、心身ともにより自由になることができます。


 同様に、音楽家として持続可能性を目指すことで、音楽に関する全ての側面への理解が深まり、演奏、編曲、作曲、即興演奏などのあらゆる音楽活動に対応できる知識とスキルが身についてきます。それにより、音楽家としての自立度は大きくなり、外部からのインプットへの依存度は小さくなりますから、より自由な創作ができるようになります。


 自由には、常に責任がついて回ります。外部への依存から自立するには、自らの世話をできなくてはなりません。クラシック演奏家は、高度な読譜能力と演奏技術によって自由自在に楽器を演奏できますが、その自由は、「どこかで誰かが曲を書いてくれている」という条件が整っている場合に限定されます。本当の意味で自由に音楽を演奏できるには、自ら音楽を生み出す能力、つまり即興演奏と作曲の能力を身につけなくてはなりません。



 残念なことに、現代の音楽教育ではこのような視点はなく、ほとんどの音楽学生は演奏の専門家としてトレーニングされます。おそらく、専門分野に集中してこそ、音楽の道を極めることができるという思い込みが浸透しているからでしょう。しかし実際には、演奏、作曲、即興演奏を同時並行的に学ぶことでしか、音楽の包括的な理解を得ることはできません。優れた作曲家の作品の演奏をすることで、演奏技術と作曲/即興のために必要な材料が蓄積され、作曲をすることで、作曲家の意図と音楽構造への理解が深まり、即興演奏をすることで作曲と演奏に生き生きとした力強い感覚的/感情的な要素をもちこむコツを学ことができるのです。


 現代は音楽教育が充実し、音楽人口も過去とは比べ物にならないほど膨らんでいるにもかかわらず、ショパンやバッハに匹敵するような大作曲家が排出されていません。その理由は、バランス欠いた近代的な音楽教育によって、音楽のスキルが演奏、作曲へと細分化され、即興においてはその必要性すらほとんど顧みられなくなってしまい、演奏、作曲、即興演奏をバランスよく学ぶ音楽家がいなくなってしまったからだと考えられます。


 つまり、分業に根ざした産業革命以降の社会構造の影響で、演奏家、作曲家を異なる職業として教育するシステムが構築され、各分野での専門家を多く輩出する反面、広い視野を持って音楽の全貌を把握できる人材が育たなくなってしまったのです。このような現象は、科学や医学においても顕著で、全ての分野を統合的に理解できる科学者や、身体と心の全体を診ることのできる医者は、ほとんど育成されていません。


 

古佐古基史:

ジャズハーピスト、作曲家、ナチュラリスト

カリフォルニア州在住。東大医学部卒の看護師・保健師の資格も持つプロのハーピスト。

渡米後独学でハープを学び、 ジャズハープの世界的先駆者として活躍中。

自宅で自給自足ファームを営みながら統合医療研究者としても学会で活動。